ピアノを弾く人

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 昏睡状態のママのお見舞いには、いけない。申し出れば付き添いのもと行けたのかもしれないが、そういうことではなかった。私は、行ってはならない。  いっそ少年法なんか無くて、私はちゃんと二人を殺せていて、情状酌量もなくて、すっきり死刑を宣告された方が、よほど気は楽に思えた。私は死んでも二人を殺したかった。私は生きるに値しないけど、もっと生きるに値しないやつが私の死後ものうのうと生きるのが許せなかっただけ。  この私の気持ちを解ってくれる人なんていない。死刑を望むと言ったところで、同情を誘おうとしているだの刑を軽くしようとしているだの言われるのがオチだ。だって、みんな傷害事件は悪いことだってわかってる。私の学校生活や私生活をマスコミは暴きたてて、私を苛めた二人を寄ってたかって弾劾してるけど、それはただの建前。ストーリーと自分に酔ってるだけ。  マスコミのストーリー通りに動く世論が、私は怖かった。あわれないじめられっ子の、追い詰められた上での衝動的な復讐という筋書きを違えたら、集中砲火に遭う気がした。それも、逃げ場のない十字砲火に。  私は用意周到に準備した。両親の自殺はきっかけでしかなかった。いずれ私はあの醜い女を、顔がわからなくなるほど殴打するつもりだった。二人を殺せば私も死ぬつもりだった。――そんなことを苦い唾液とともに飲み込んで、私は二人の非道さを淡々と語った。誰も彼も同情的だった。その誰もが、私を通り越して作り出した虚像を見ていた。  私は悪いことをした。だから、殺す二人に対してじゃなく自分のために、自分を殺すつもりだった。もし私が集中砲火に遭い、町をも歩けなくなったら、それは確かに私へのこれ以上なく適切な罰なのかもしれない。だけど、私にその勇気はない。ママが、細々とはいえ、今も生きているから。濁流になるほどの痛みも、苦しみも、今は感じない。
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