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「おおきくなったら、あさちゃんのこと、ぜったいにむかえにいくから」
「まってるね。やくそくだよ」
懐かしい記憶だ。私が小さい頃、大好きだった幼馴染みが引っ越す時に交わした約束。
夏休みに彼が引っ越すと知った私は、引っ越す前日に彼と星見に行った。夏と言えど夜は少し肌寒くて、彼が私に上着をかけてくれたことを覚えている。
輝く星を眺めながら、彼に私がお願いしたのだ。
――おおきくなったら、わたしをおよめさんにして。と。
恥ずかしいお願いだ。でも、あの頃は彼が私の全てだった。
隣の家に住む1つ年上のお兄ちゃん。優しくて頼りになる彼を、私は好きにならないはずが無かった。誰に何と言われようと、彼のことが大好きだった。
「……逢いたいな、紘」
静寂に包まれたオフィスで、一人溜息を吐く。
須藤紘。私の幼馴染みの名前。
最後に逢ったのは、私がまだ小学校低学年だったとき。一度だけ夏休みに遊んだのが最後だ。数年逢ってないだけで、紘の顔付きも身長も変わっていた。再会出来て嬉しい反面、紘が知らない人になったみたいで少し怖かった。
思い返せば、ただのヤキモチでしかないのだけど。
あれからもう20年。
彼はどんな風に成長したのだろう。想像が出来ない。
顔を上げると時計が目に入った。針はもう19時半を指している。残業をしているのは、私の他に一人だけ。仕事はまだ残っているけど、そろそろ帰ろう。
「誰に逢いたいの?」
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