12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「探したりはしないんだ?」
「……約束、したんですよ。迎えに来るから待ってて欲しいって。だから、私は彼が迎えに来てくれるのを待ちます」
「へぇ、健気だね。瀬口さんって」
そう言って先輩は電気の消えた室内を見回す。
私が鞄を持って立ち上がると、彼は私の鞄をひったくってそのまま歩き出した。どうやら持ってくれると言うことらしい。
今まで特に関わらなかったから、古田紘と言う人間のことはよく分からない。
「俺にも幼馴染みが居るんだよね。年長の夏休みに引っ越したから、もう20年以上前のことなんだけど。星が降るように流れ星が輝く空の下で、幼馴染みに結婚してくれってお願いされたんだ」
「先輩はその子のこと好きだったんですか?」
「……ああ。好きだよ。今も好きだ。何故好きなのかは自分でも分からない。20年も逢ってない上に、覚えてるのは小さいときの記憶だけ。なのに何故かあいつが好きってことだけは、この20年間変わらなかった」
その子と、約束したんだ。
会社を出たところで、先輩は空を見上げる。月が輝いていて、とても綺麗に見えた。
街灯があちらこちらにあるせいで、残念ながら肉眼で星を見ることは出来ない。
外は社内と違って、酷く蒸し暑かった。蝉の鳴き声は聴こえないけれど、足元に蝉の抜け殻が落ちている。
――何か嫌だ。
この暑さも、蝉も、夏と言う季節が来るたびに、紘に逢いたくなる。もう待ちきれないよ、紘。
最初のコメントを投稿しよう!