幼馴染みの彼女

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 夏になるたび、幼馴染みを思い出す。  今年の夏もそうだった。大学を卒業し就職した会社で、残業中に花火の音を耳にしたときのことだ。  花火の音と言えば聴こえは良いが、所詮はただの破裂音。その破裂音は年々薄れゆく彼女の記憶を朧気に呼び起こす。  20年も繰り返し復活させられた記憶の彼女は、1つ下の笑顔が似合う可愛らしい女の子だと言う情報くらいしか残っていない。  大好きだった。大人になっても一緒に居たかったし、一緒に居るつもりだった。  あの日までは。 「おおきくなったら、あさちゃんのこと、ぜったいにむかえにいくね」 「まってるね。やくそくだよ」  俺が7歳のとき。  脱サラした父が家業を継ぐことになり、祖父母の住む隣町に引っ越すことになった。小学1年の夏のことだ。 「あさちゃんと離れたくない」  何度そう駄々を捏ねただろう。しかし、その願いも空しく俺は諦めるほか方法が無かった。  あれから20年。俺は27歳になった。社会人5年目、会社にも慣れてきて後輩も出来た。  それなりに充実した生活を送っていたある日のこと。彼女が俺の目の前に現れたことで『忘れていた感情』が鮮明に蘇った。 「あさ、」 「また言ってんのか? 気になるならいい加減声かけろよ」
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