幼馴染みの彼女

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 同期の工藤(くどう)はそう言って溜息を吐く。俺はコーヒーを啜りながら、先日俺らの所属する企画部に異動して来た瀬口あさのことを考えていた。  瀬口あさ。そんな名前だったか。  幼き日の出来事を掘り起こし、色褪せた記憶に色を乗せていく。俺が好きだった、いや今も忘れられないくらいに恋するあさちゃんの苗字は、果たして瀬口だっただろうか。滲んだ記憶の修復は何日かかっても終わりそうにない。 「勘違いだったら俺すげぇ痛いやつだろ」 「今も大して変わんねえよ。ヤバいやつが痛いやつになったところでお前の評価は変わんないしな」 「お前は本当に遠慮ないやつだな」 「誉め言葉として受け取っておくよ」  そう言って工藤は煙草を蒸かす。  その様子はまるでテレビや雑誌に映るモデルの様に、妖艶で絵になっている。俺は飲み終えたコーヒー缶をゴミ箱に投げ入れると、またひとつ溜息をついた。  工藤みたいにモテたら、瀬口あさがあさちゃんだろうとそうでなかろうと声をかけれただろうに。  残念ながら工藤の引き立て役でしかない俺には、彼女に声をかけることは容易ではなかった。 「それにしても本当一途な、お前」 「……瀬口あさがあさちゃんだったらな」 「幼馴染みかどうかなんてこの際どうでも良いから、とりあえず近付いてみたら? 案外その『あさちゃん』かどうか分かるかもよ」  それが出来たらこんなに悩んでねえよ。  心の中で独り言ち、適当にそうだなと返す。ふと時計に目をやると思ったより時間が過ぎていたため、俺は工藤に断りを入れデスクへと戻ることにした。
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