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降りしきる雪の中、私は遠い記憶を呼び起こしていた。
すると、突然、後ろから頬に熱い物を押し当てられた。
「キャッ、あつっ!」
驚いて振り向くと、そこにはニヤニヤ笑う長身の男が立っていた。
私は恐怖で目を見開いていたが、その男の顔を確認して、さらに大きく目を見開いた。
「マサト?」
「久しぶり。」
そう言うと、マサトは、私に今頬に押し当てた、缶コーヒーを差し出してきた。
「ずいぶん寒そうだな。まあ、飲めよ。温まるぞ。」
「どうしたの?いつこっちにきたの?」
マサトは、私の初恋の相手だ。
告白をした日も、こんな雪の日だった。
マサトは微笑んでいるだけで何も言わなかった。
「あっ、思い出した。」
私は、思わずまわりを見回して呟いた。
そうなのだ。仕事に追われ、すっかり忘れていたけど、今日は特別な日。
私がマサトに初めて告白して、付き合い始めた記念日だった。
2月13日。
忘れもしない。皆が2月14日にチョコレートを渡して告白するのであれば、私はその前に渡して彼の気を引きたかったのだ。
あの日、部活帰りの私の後からマサトが追いついてきて、こんなふうに、缶コーヒーをほっぺたに押し付けてきたんだった。あの頃から、マサトは悪戯が好きだった。
そして、今、私が居る場所は、あの故郷の道だ。
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