6人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん、俺も、同じ気持ちだったから。少しでも、ユカと一緒に居たくて。」
「あ~、懐かしいなあ。」
「うん、そうだな。」
「ねえ、マサトは、今、彼女とか、いるの?」
「いや、今は居ないな。」
「...そう。」
「ユカは?」
私は黙って首を横に振った。嘘をついた。私はずるい。
胸の奥がチクリとうずく。
私は県外に就職が決まり、マサトは地元の自分の家の家業を継ぐために残った。
最初は、遠距離恋愛で頑張っていたものの、仕事に振り回される毎日、疲弊してついつい、マサトとの連絡も絶え絶えになり、私は、すぐ側にある恋愛に走ってしまったのだ。
道ならぬ恋、相手は妻子ある上司だ。いまだに、不毛な関係をずるずると引きずっている自分に嫌悪感を覚える。もう一度、やり直せるものなら。そんな考えがチラリとよぎったが、やはり私は上司のことを諦めきれない。
「遠回り、しよっか。」
そう言うと、マサトは微笑んで私の手を握った。
氷のように冷たかった。
だけど、私はその手を温めようと、握り返した。
私たちは、今まで離れていた時間を埋めるように、とめどなくいろんなことを話した。
ただし、私の今の恋愛については何も話すことはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!