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#浅き夢見路の出口#
トイレに入るなりボクは我に返った。
鏡に映る自分の姿を見て、夢から覚めた。
ボクはただの太ったギョロ目の中年だった。
斜め後ろから聞こえてくるロマンスグレーのイカした紳士と可愛い嬢が展開するデートの会話を盗み聞きしながら、羨ましく思っていただけだった・・・。
トイレの鏡の前には現実の世界に直面している自分自身の姿が映っているだけだった。
そうだ、もちろんボクも萌愛を誘ってデートがしたい。萌愛と食事会をしてみたい。
けれどボクは萌愛のタイプにあらず。デートどころか延長さえも催促されない。
今宵もおざなりのキスだけはサービスしてくれるが、それ以外は対応すらも素っ気無い。
ただ時間だけが無常に過ぎていく・・・・・。
人気嬢の萌愛は何人もの客を抱えており、ボクにあてがわれた数分の時間でさえ、疲れたようなそぶりでの対応だ。
「さあ、そろそろ時間よ。また来てね。」
大した挨拶を交わすこともなく、ボクは寒い冬空へ放り出されるのである。
ボクを慰めてくれるはずの月は雲の中に潜り込み、ただトボトボと木枯らしだけが舞っている道を歩いて帰る。
溜め息だけが白く濁り、一人ぼっちのアパートまでの道案内をしてくれる。
そういや、まだ冬だったな。
今日もいい夢を見させてもらった・・・。
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