【2.夕立】

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いくら人の生命がかかったことであったとしても、人はそれを知りたがらない。もし自分や大切な人が病にかかったならば話は別だろうが。例えばガン。ガンという病があることは誰でも知っている。ではそれをどうやって治療するのか? 致死率は? 前兆となる症状は? 寛解する確率は? これらを正確に答えられる人がどれだけいるだろう。“コバルト60大量遠隔照射装置”というワードを聞いたところで、「SFの専門用語かな」と思う人が大半だろう。 ソレウス構造体についても同じことが言える。ソレウス構造体に寄生されても、致死率は数%だ。だんだんと身体は動かなくなるが、死ぬことはない。僕は生殺しの状態で病室に横たわることしかできず、寿命を待つなんてことは死ぬよりも残酷なことだと思うのだけれど、やっぱり“死”というものに比べるとその恐怖はいくらか薄いようだ。 部室に戻る頃、雨が止んだ。タイミングが悪すぎる。今日はお祭りになるはずだったのに。神様は僕らに嫉妬しているのか。 「わあ! ナナカ先輩から着信来てた!」 部室の卓上に置いていたスマホを見て、マドカが小躍りしている。普段スマホを持ち歩かない華山先輩からの着信。僕には嫌な予感しかしない。マドカが嬉々とした表情でリダイヤルをする。 「先輩! 今どこですか?」 瞬時にマドカの表情が曇る。声のトーンが落ちる。やめてくれ。マドカはいつも笑っていてくれ。頼むから。今日はこれ以上、イベントはいらない。しかし、通話を終えたマドカの口から、本日最後のイベント、それも最悪のイベント開催のお知らせが告げられる。 「ナナカ先輩、バイクで事故って、今、蒲生里大病院って……」 部室の窓から眺める空は、重い灰色で今にも落ちて来そうだった。
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