【3.ここにいていい理由】

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気づけば、誰もいない部室で電気もつけずに座っていた。どうやって病院から部室に戻ったのか覚えていない。雲はすっかり消え去って、窓から西日が射しこむ。その夕日に照らされた薄暗い部室をゆっくりと眺める。ここは居心地がいい。みんなの匂い(主にヨウジロウのタバコの匂いだけど)が、人懐っこい猫が甘えるように体を包んだ。ここが居心地がいいのは、4人の部屋だから。僕だけの部屋じゃないし、ヨウジロウのでも、マドカのものでも、華山先輩だけのものでもない。誰一人欠けちゃならない。みんなの場所。僕は、壁に貼られた、たった1つだけの僕の私物を撫でた。 古い(と言っても10年前くらいの)『ジャイアント・アーマーズ』のポスター。“ジャイアント・アーマーズ”は巨大なロボットに乗り込んだ操縦者同士が戦う大会だった。武器の使用と操縦席への直接攻撃以外はなんでもありのバーリートゥド形式だが、使用するマシンについて厳正にルールがあって、それに基づいて製作されたものでなければならない。絶大な人気を誇り、4年程続いたが、ある“事故”とVRゲームの台頭によって終了。忘れ去られつつあるが、今でも根強いファンがいる。僕もそんなファンの一人だった。 初めてテレビで“ジャイアント・アーマーズ”を観た時のことは生涯忘れることはないだろう。体高18メートルの人型ロボット。ルールの範囲で参加者が思い思いに工夫を凝らした派手な機体。アメコミのヒーローを思わせるマッシブな腕。とてつもない重さを支えつつも、機敏な動きを可能にする多脚。分厚い強化アクリルで守られたコックピットには、性別、年齢、人種は様々だが、一様に目を爛々とさせた猛者たち。
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