【1.“ロシュツキョー”】

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セミが鳴いている。体育館脇の足洗い場が併設された水場は、人肌の2倍程度には熱せられていて、無論蛇口に触れることは憚られた。僕は喉が渇いていた。蛇口を捻ることができたとして、銀の蛇口から渾渾と溢れ出す生水を直に飲むことができるかというと、無理だ。幼年期はとうの昔に過ぎ去った。冷えたコーラ、辛口の缶ビール、安いハイボール、ペットボトル入りのミネラルウォーター。生水よりうまいものはたくさんある。あとで自販機を探そう。 『ーーソレウスキラーは20マイクロメートルほどのマイクロマシン。小さいけれど、倒すべき相手よりはちょいとばかしデカいから心配しないで大丈夫。大事なのは大きさじゃなくて、“誰が操縦するか”ってとこ。胴体からは1対の腕が生えていて、一方はソレウス構造体を物理的に捕捉するためのアーム。もう一方は(こっちの方が重要なんだけど)、ソレウス構造体の活動を停止させるための即効性ワクチンが入った注射針状の武器がついている。腰部は傾きやねじれを再現できるようボールベアリングになっていて、脚部は上下動をするためにバネ状になっているんだけど、その根元へ視線を辿ったところで足みたいなものは存在しない。 ではどうやって動くのかというと、さっきのシリコンが役に立つ。シリコンっていうのは電気を流すと収縮する。シリコンっていうとプルプルしてるってイメージかもしれないけれど、ミクロの世界では結構強靭なんだ。シリコンを収縮させることで、ソレウスキラーは底面上を縦横に移動することができる。電力供給を最小限にすることで、シリコンが緩んで3次元方向に移動することも可能だけど、流れる血液の影響を受けるためコントロールが困難になるから、現実的には不可能かな。 アミラルβ線によっておびき寄せられたソレウス構造体がフィールド内に侵入すると、直ちに立方体の面に有機膜(僕らはバイオシールドって呼んでる)が生成され、ソレウス構造体をフィールド内に捕捉する。有機膜は白血球による攻撃を受けるため、8分間しか保たない。だから短期決戦でとどめを刺さなきゃならないーー』
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