【1.“ロシュツキョー”】

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先輩は体育館の中を1人、ぐるぐると歩き回る。規則正しく、決まったペースを崩さない。足を止めたと思うと、よくホームセンターの入り口に積んであるようなレンガ大のボックスを、ワックスがけされた板張りの床に据えた。やがて4つのボックスが置かれ、それを星座みたいに繋ぐと正方形になったところで、動きを止める。一辺4メートルの正方形の真ん中、対角線が交わるところで胡座をかいて瞑想を始める。いつものルーティン。すとんと肩にかかった髪が熱気のせいか揺らめいて見えた。 『ーーそうだ。ソレウス構造体の説明がまだだった。正式名称『循環器系寄生細菌様自律的構造体』。人間の血管内に寄生し、自立した動きを見せる、体長8マイクロメートルほどの微小な有機体だ。血管内を回遊し、正常な細胞にウイルスを植え付けガン化させる。ガン化した細胞が一定量を超えると、患者は体が動かなくなり植物状態になる。 それからさっき出てきたアミラルβ線の説明もしなくちゃね。ソレウス構造体が発している特殊な放射線がアミラルβ線で、ソレウス構造体はこれに引き寄せられる性質を持つ。ソレウス構造体は自分の遺伝情報を埋め込んだ悪性細胞を、アミラルβ線でコントロールすることができる。これがソレウス構造体の厄介なところで、ソレウス構造体と悪性細胞は相互に情報を送りあっていて、ソレウス構造体を捕捉し体外へ摘出すると、ガン化細胞が活性化し病状が悪化してしまう。最悪の場合、死。だから摘出はせず、体内でソレウス構造体の活動を止め、近赤外線を使った光免疫療法や高分子ミセル等によって、ガン化細胞を直接叩くしかない。ソレウス構造体の正体や起源については進化した病原体、地球外から飛来した外的生命体などの説があるけれど、誰にもわからないーー』
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