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スマホが震えた。
「コウちゃん先輩、今どこですか? ソ対機からめちゃくちゃ電話きて、流石にしんどいんですけどー」
「……あー。今、波根有西小の体育館」
「はあー? なんで小学校なんですー!?」
スマホの向こうで1回生の一ノ瀬マドカが「どーりで市内で見つからんわけだ」と悪態をついた。僕だって空調の効いた市立体育館でコーラ片手に8分間の戦争を眺めていたかった。でも仕方あるまい。先輩が「小学校の体育館がいい」と言ったから、こうして急遽、夏休み中の母校に頼んで開けてもらった。先輩と一緒にいて予定通りにいった試しはない。
「位置情報確認できましたよー。フィールド構築は?」
「大丈夫。多分」
「曖昧ですね。はっきりしてくださいよー。こっちからソ対機には、丁重にお詫び申しあげておきますから。……では、健闘を」
「ああ、伝えておく。そっちも頼んだ」
通話を切れる間際にマドカが小言をひとつ。
「あとコウちゃん先輩、ちゃんと学祭用の資料作っといてくださいね」
「言われなくたって、ちゃんと今書いてるから」
「なら、いーですけど!」
予定の開始時間まであと3分。ギリギリもいいところだ。まあ敵の方だって予定通りには現れない。今頃、マドカとヨウジロウは冷却ファンが轟音を立てる蒸し暑い部室でディスプレイを眺め、キーを叩いているはずだ。利用規約に「禁煙」とある部室棟の一室を紫煙で満たして。いつか管理人に詰められるだろう。でもヨウジロウにタバコを止めろとは言えない。「タバコ止めるくらいなら、操縦研辞める」と、あの陰気な顔で言われるに決まっている。奴が止めると研究会の活動は立ち行かなくなるのだ。刻一刻と迫る予定時刻については一切心配していない。優秀なあの2人なら3分なんて充分すぎる。
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