【1.“ロシュツキョー”】

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『ーー話を3つのフィールドに戻そう。2つ目は仮想フィールド。ソレウス体はとても小さいため、光学的に観察することはとても難しい。だから流体数値力学に基づいて数値計算を行い、その位置や運動を捉える必要がある。そのためソレウスキラーに参加する人たちは、ソレウス構造体対策機構からリアルタイムで送られてくる情報を元に計算を行い、ソレウス構造体の位置を特定する。ヴァーチャル空間に仮想の立方体フィールドを構築し、ソレウス構造体の動きを可視化して、掃討実験にかかるわけだ。仮想敵は実物のソレウス構造体の形に忠実である必要はなくって、掃討実験に支障がなければどんな形でも良い。クトゥルフのバケモノでもチョココロネでも、それからアゲハ蝶でも。 ソ対機の説明もまだだったね。ソレウス構造体対策機構ってのは、その名の通り、ソレウス構造体を倒すために設立された機関だ。長いから縮めて「ソ対機」。WHO直轄機関で世界中に支部が存在する。もちろん日本にも。各施設内にはソレウス構造体掃討実験の設備が整っていて、科学者や医師が常駐、日々研究を行なっている。始めに挙げた1つ目のフィールドに関わるのがこの機関だーー』 体育館前のヤマモモの木の下で少年たちが1つのタブレットに顔を寄せている。小さなスピーカーから発せられたざらついた音声が、ぬるい風に乗って聴こえてきた。 “日本からの初参戦! なんと大学の同好会で組んだチームだ! 事前データの乏しさから人気は低く、大方の予想は“敗戦濃厚”。オッズの方もご覧の有様で、大穴狙いのギャンブラーたちが……” 人の生命がかかった戦いをエンタメ化する“大人”たちが嫌いだ。“金と利権”が、干上がった地面で跳ねるミミズみたいに蠢く様を連想した。でもそれを見守る少年たちに罪はない。彼らの歪みのない目には憧れと興奮が浮かんでいる。ヒーロー。いつの時代も子供たちは、それを信じている。僕だってそんな子どもの1人だった。かつては。でも彼らに、ディスプレイの中のヒーローが、すぐ隣で胡座を組んでいる“ロシュツキョー”であると言っても信じないだろう。
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