【1.“ロシュツキョー”】

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「……きたっ!」 少年(おそらく)Bが叫んだ。遠く離れたワシントン州立大学病院の特別処置室で放射されたアミラルβ線が、とうとう敵をおびき寄せたらしい。同時に、揺らめく灼熱の体育館の中で影が動いた。黒いコートが宙を舞う。四角い(と言っても頂点だけで、目で確認できるような辺は存在しない架空の正方形の)フィールドの外にそれは着地して、彼女の四肢が露わになる。黒いボディスーツ。残念ながら露出狂ではない。“ロシュツキョー”だと騒いでいた当の少年たちは、画面に釘付けで気づいちゃいないが。 上半身を覆った合成繊維のスーツには所々ドットが付いていていて、左の二の腕あたりには、デバイスを固定したバンド。そこから伸びるコードの先は、頭の上に乗ったヘッドマウントディスプレイに繋がっている。身長179cmの寒がりな女は、VRメガネ越しにその敵と対峙しているのだ。彼女にとってその敵は、1匹の“アゲハ蝶”に見えている。 『ーーまた話が逸れた。残る最後のフィールドはアクションフィールド。ソレウスキラーの操縦に必要不可欠だ。1辺4メートル四方の正方形上のフィールドで、頂点に設置された4つのパンクタムボックスが操縦者の動きをモーションキャプチャする仕組みになっている。その操縦者の動きがリアルタイムでリンクすることでソレウスキラーが動く。操縦者はモーションキャプチャ用のドットがついたスーツとVRのウエアラブル端末を付けている。VRメガネを通して仮想フィールドを視認し、ソレウス構造体を視覚的に捉え、攻撃することができるーー』
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