【4.第2戦】

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【4.第2戦】

華山先輩がコートを脱ぐ。入場してきたレスラーがガウンを脱ぐように。腕にはギプス。いつものアクションスーツは着脱が難しいということで、半袖のスポーツウェアを購入し、モーションキャプチャ用のドットを縫い付けた。一応、右腕のギプスにもドットを両面テープで貼り付けるという応急措置をしているが、使わないに越したことはない。 「……来ます」 マドカからの着信の直後、華山先輩が動き出した。右腕は所在なさげにぶらぶらと。しかし、脚に問題はないから、いつも通り華麗なフットワークでアクションフィールド内を跳ねる。先輩はアクションフィールドの縁を這うように動く。今日のソレウス構造体はどうやら臆病なようで、バイオシールドに穴がないかと右往左往しているらしい。 「彼女はスポーツでもしてたの? ボクシングとか」 あまりの機敏さに目を丸くした橋田先生が、僕に問う。問われたところで回答はできない。だって華山先輩のことはよく知らないから。いつも黒いコートを着ていて、クリームソーダを好み、美人だけれどファッションや自分の容姿には無頓着で、面倒くさがり。朝が弱くて、大学の授業はサボりがち。クールで無愛想に見えるけれど、実は優しい。それくらいしか知らない。充分かな。先輩がどんな幼少期を過ごしてきたかなんて想像もできなかったが、幼馴染ならいざ知らず、仲の良い大学の親友だって、幼い頃のことなんて知らないもんだ。そういうものだ。 母校の体育館は変わっていないが、卒業してこれだけ経つと印象が違う。全てが、幾分、小さく感じる。合唱コンクールで立ったステージは、当時はとても厳かに感じたものだけど、今見れば大したことはなくて、ゴールを決めた同級生がヒーローに思えたほど高く感じたバスケットゴールは、軽くジャンプすれば手が届くほどで拍子抜けした。
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