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【5.世の中知らないことの方が多い】
僕は住んでいるアパートの近くにある24時間営業のファミレスにいた。2人がけのテーブルの向かいに座っているのは雑司ヶ谷キミヒコ。今日も彼は無精髭に黒のワークキャップ。他の部員にこの光景を見られたくないなと思いながら、チーズハンバーグ定食を食べていた。なぜこの男とサシで飯を食っているかを説明するには1時間前に時を遡る必要がある。
盆の帰省を済ませて帰ってきた、ちょうどその日。祖父母からの“盆玉”に少し膨れた財布を嬉しく思いながら、最寄駅を降りた。西日が眩しい夕方。盆を過ぎた夕焼け空の色相は、赤味がかっていて、早くも秋の雰囲気を感じさせていた。東口を出ると、ロータリーを囲むように広がる公園のベンチに、見覚えのある男が座っていた。
「やあ、石立くん。第2戦、お見事だった」
競馬新聞を畳みながら、馴れ馴れしく握手を求めてくる。疲れたので帰らせてくれ、という意味の僕の言葉を無視して雑司ヶ谷は続けた。
「いやあ、お祝いというか何というか、君に渡したいものがあってね」
雑司ヶ谷や擦れてボロボロになった合皮のセカンドバッグを開くと、中から日に焼けた紙の束を取り出した。どんな餌にも釣られることはないと高を括っていた僕だったが、それを目にした瞬間、考えが変わった。
「J・ウォリアの設計図なんだけどさ。君、ジャイアント・アーマーズ好きだろ?」
J・ウォリア! ジャイアント・アーマーズで1、2を争う人気を誇った、日本生まれのロボット。ジャイアント・アーマーズの最盛期を支え、そして、ジャイアント・アーマーズを終わらせるきっかけとなった機体。ファンなら誰しも憧れる伝説のロボット、その設計図が目の前にあった。
僕は「決して設計図に釣られたわけではないから」と、ツンデレみたいなことを言いながら、雑司ヶ谷に連れられてファミレスに向かった。そういう訳である。我ながら意志が弱い。カラスが嘲笑うようにひと鳴きして、西の方へ飛んで行った。
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