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幽霊からの証言
「カット!!」
助監督である蘭の一言で、俺は膝から崩れ落ちた。
西に傾きかけた太陽は、昼ほど日差しは強くないが、さすがに暑すぎる。
俺はひらひらと袖を動かして、風を出来るだけ入れようとした。
本当は袖をまくって「あづい~~!!」って叫びたいけれど、設定キャラクター的にそうもいかない。
現在、八月下旬。
俺たちは文化祭の出し物のために、映画を撮影していた。
みんなの部活のオフが比較的に多い水曜日に集まって撮っている。
でも…毎週毎週、蒸し暑い中で演技をしなければならないので、ここ最近じゃ水曜日が来るたびにいつも落ち込んでいる。
「圭、大丈夫?」
純がアイスコーヒーが入った紙コップを、暑さでへばっている俺に差し出した。
…水曜日の幸せはただ一つ。
純が笑顔でアイスコーヒーを差し出してくれるということだけ。
「ありがとう。平気だよ」
俺は一気に紙コップを煽った。
残った氷をガリッと噛み、飲み込んだ時の喉に伝っていく冷たさで、すっと心が落ち着いていくのを感じた。
「大変だよね。
クールな圭を演じながら、東条慎之介も演じないといけないからね」
純だって、ヒロインじゃないか…
なのに、平気な顔をしてたくさん冷たい飲み物を用意し、みんなに渡している。
まさに、出張カフェだ。
ああ…いいな。
純はいっつも元気で。
彼女の1パーセントでも元気があれば…もう少しちゃんと笑いかけられるのに。
なぜ、俺がこんなに疲れているかって?
それには二つの理由がある。
一つ目は、俺の役は侍だからだ。
侍ってことは袴を着ないといけないし、東条慎之介の年齢設定が俺と同い年ぐらいだから、ポニーテールのようなカツラをさせられて、より暑い。
…まあ、ちょんまげをさせるのを嫌った女子たちがいたから、そうしたんだろうけど。
二つ目は、さっきまでアクションをしていたからだ。
しかも、その指導者が最悪なことに…忍。
アクション俳優を目指している彼の指導は…悪魔と形容しても過言ではないだろう。
「圭。お前、剣道強いんじゃなかったっけ~~??」
忍は俺の髪をわざとらしくかき回す。
…ズラがずれた。
この歳でそのことを気にするだなんて…悲しすぎる。
暑苦しい袴に、忍監修の過激なアクション…
「辛いよぉ~」
もしも純が、頭を撫でてくれたら…もっと元気が出るのに。
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