勇者という名は、

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勇者という名は、

満員である傍聴席の人達は固唾を飲む。その訪れた静寂に、今か今かと期待を込めて。裁判長は裁判官の1人が持ってくる書類を受け取り、隣席の裁判官が傾けてみせたパソコンに目を向ける。落ち着き払った態度で小さく頷く裁判長に、傍聴席の記者達がまるで徒競走のスタートラインにでも立ったかのように浮き足立つ。 「それでは判決を言い渡します。本件の裁判官並びに裁判員全員による承認、警視庁による承認、インターネットによる100万の一般署名、そして本件の裁判長による以上3つの承認の認証をもって恩赦法第8条の2に則り、主文、被告人に対する殺人罪による刑を免除する」 すると被告人、荊木勇士(いばらきゆうし)は静かに頭を下げた。すでに記者達は法廷を出ていっている。外での騒ぎようは容易に想像出来よう。外に限らず、傍聴席だって静かに沸いているし、裁判長自身もその表情に安堵を伺わせるほどだ。 「ではこれにて裁判を閉廷します」
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