勇者という名は、

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「炎魔大王?・・・ですか」 近付いて武真は初めてその人が男だと分かったが、暗闇の黒がそのまま重たさを感じさせるその沈黙は、駆け上がるような悪寒を走らせた。 「悪いけど、内緒にしてて貰えないかな?有名になりたくてやってる訳じゃないから」 全く想像もしてなかった柔らかい物腰は逆にまた沈黙を呼んだが、武真はそれからすぐ、頭を下げた。目の前に居るのは、弟を殺したクズを殺してくれた、ヒーローなのだ。 「ありがとうございました」 「・・・うん、でも僕は、僕に出来る事をしただけだから」 それから武真はその日の会話はそれだけだったと続けた。 「実は、炎魔大王に依頼したの、1回だけじゃないんだよね」 「その日以降の炎魔大王の案件は水道橋でのものと、暴走族のリーダーに関するものだけど」 「その、神田川の方」 「武真くんは、神田川の事件に関係してるの?」 「ううん、まぁ話した事ないクラスの女子も被害にあったし、危ないって思って」 水道橋付近での神田川沿いにて発生した「無差別殺傷事件」。犯人は超能力者である大学生、五味竜司(ごみたつし)。そんな事件を知り、武真は炎魔大王に依頼し、そして五味をマークしていた。匿名で自ら五味に手紙を送り、五味が起こした事件の現場に呼び出して。 「どこだよ、くそ」 夜も更けた頃、自ら起こした事件現場に立ち、呟く五味。そんな五味を、武真は物陰に隠れて眺めていた。そこに荊木勇士がやって来ると、五味は“近付いてきた待ち合わせ人と思われる者”に気が付き、歩み寄る。 「さっさと金よこせよ、逃がしてくれんだろ?・・・・・・あぐぅっ!」
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