勇者という名は、

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警視庁の特テロ刑事である北村(きたむら)は後輩の森阪(もりさか)と共に裁判所を後にした。そりゃ中には“にわかヒーロー”だって居る。恩赦法8の2が作られた当初は一事不再理を狙ってわざと勇者法を基にした裁判を要求する者も居たが、そこは警視庁によって“悪意の有無”が捜査され、100万人の民意だけでは安易に刑を免除出来ないようになっている。今は以前よりも勇者ブームは大分落ち着いた。ヒーローに対する世間の見方も少しずつ良くなり、そして今日もまた1人、ヒーローが誕生した。 「北村くん、最近の中じゃ荊木さんは1番ヒーローっぽいよね」 「うん」 「判決前の荊木さんの陳述、きっとマスコミが大々的に取り上げるよ」 100万人もの署名が集まるという事は、それだけでもう裁判が始まる前からファンが居るという事が分かる。そうなれば例えまた殺人で逮捕されても、十中八九勇者法が適用される。車に戻りながら北村はふと、とある事件を思い出していた。 それは1番古い“荊木案件”。荊木を逮捕して余罪を捜査し、初めて犯人が分かった「焼殺事件」。それは2ヶ月前に遡る。殺されたのはスーパーの店長で、犯行場所は被害者の通勤路の途中にあるガード下。通報を受けて警官が向かうと、そこには所々焦げてはいるが、“とても焼死体には見えない”遺体があった。検死結果は心臓が激しく焼け、消滅した事による出血死。つまり、内臓だけが焼かれた焼死体だった。後にその案件は特テロに回されたが、“例によって証拠不十分”により犯人の特定は不可能とされた。 荊木勇士の裁判の公判前、北村は森阪と共に「スーパー店長焼殺事件」の聞き込みに向かった。後任の店長の下、スーパーは平常通り営業していて、北村は通報者である店員の蒲田涼子(かまだりょうこ)に警察手帳を見せて時間を取らせた。 「店長が出勤して来ないので、家に向かったんです。その途中で、遺体を見つけて」 「蒲田さんは、『炎魔大王(えんまだいおう)』を知っていますか?」
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