ある朝

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白ごはんと、インスタントの味噌汁。 一番豪華であるメインは、ホッケの干物。フライパンの上で美味しそうに焼けている。 個人的にはそこに納豆でもつけたいものだが、同居人は嫌がるからやめておこう。 今日は特別な日だから。 「やっぱお前、魚好きだよな」 「そうかな」 「そうだろ」 そんな会話も、いつぶりだろう。 「おはよう」 「おはよ」 当然のように食卓に着く。こいつは料理ができない。 小さな窓から差し込んでくる光が明るくて、今日が晴天であることを知る。 「できたよ」 まだ眠そうに瞼をこする、その前に配膳していくと、徐々にぱちりと目が開く。 子供のようなその様子は、今でも変わらない。 「いただきます」 いい年をした大人2人が、手を合わせて、声を合わせる。 まずは味噌汁。箸で混ぜて、一口。濃いめの味にも、すっかり慣れた。 ご飯を少し、口に含む。少し感じられる甘味に安心する。 「今日は休み?」 「うん」 ふっくらと焼けたホッケの背中に線を引く。丁寧にほぐしてみるものの、なかなか箸が思うように動かない。 「じゃあ、デート?」 「そんな相手いないし」 できるならお前の方が先だろう、とか。 「そうかな」 「そうだろ」 そんな会話をしてみたって、現実になってみた試しはない。 「でもまずは仕事かなー」 「わかる」 家賃を浮かせるために男2人でルームシェアを始めたのは、大学生のとき。 収入が安定するようになってからもここでの生活を続けているのは、引っ越しが面倒だから。 タイミングを逃して、それっきりなのだ。 「今日買い物に行こうと思うんだけど、行く?」 「いいよ、どこ」 生活スタイルも違うから、狭くてもプライバシーは確保できる。 たまに合う休みには、こうして「友人ごっこ」ができる。 「スーパー。白菜が安いから、晩は鍋にしたい」 「荷物持ちかよ…オッケー」 だから、約1ヶ月ぶりのこの休日はーーー 「…そんな見られると食べられないんだけど」 「ごめん」 「思ってないくせに?」 皿の左端に寄せられた、ホッケだったもの。自分のは、そこまで形を留めてはいない。 「俺、お前の魚の食い方、好きだわ」 「何じゃそりゃ」 いつか目が覚めて、この生活が終わるその時までに、魚の食べ方をマスターしたいものだ。 「…達成時期は不明」 「?」
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