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 「戸締りよし、と」  都内のマンションで、男――哲也はぼつりと呟く。  時計を見ると、バレンタインまであと2時間。キッチンはいつも通り綺麗に何もなく、冷蔵庫はスーパーで買ったお惣菜と「さつき」と書かれた紙が貼ってあるプリンがいくつかあるだけだった。残念ながら、今年も10円のチョコをいただくことになりそうだ。いやもしかしたらプリンなのか?  「それじゃ、いってくるね」  高校生くらいまではバレンタインは嫌いだった。  少し大柄だったが、顔も勉強もスポーツもそこそこで、ほとんどモテなかったからだ。  「……」  そんな哲也に一目惚れした女――さつきが静かに寝息を立てている。熟睡だ。  切れ長の目に長いまつ毛、細身で長身の体はいかにも美人、という風ではあったのだが、快活で思い込んだら一直線!という性格とのギャップのせいか、どちらかといえば美少年のような印象があった。  メイクは落としているし、目覚ましもセットしてある。髪がかなりボサボサになっている気がするが、きっと朝起きてからでもなんとかなるだろう。  ……どうしてこうなったんだ?  さつきは子供の頃から医者になるのが夢で、将来は国境なき医師団に入ってたくさんの人を救うんだ、自分の病院を立てるんだ、などの野望をかねてから高らかに宣言していた。その言葉通り、彼女は国立の医大に進学し、現在はERでインターン中だ。  一方の哲也はといえば、さつきとは違う大学の経済学部へ進学し、友人に誘われて始めたプログラミングにハマり、その後IT企業へ就職した。  学生時代はお互いに忙しいながらも時間をつくり、デートを重ね、誕生日やクリスマスをお祝いした。バレンタインとホワイトデーも例に漏れず、毎年お互いに不器用ながらも手作り感のあるプレゼントを贈りあっていた。大抵溶かして固めただけのチョコレートと型抜きして焼いただけのクッキーだったが、その雑さやいい加減さをお互いに笑い合うのが楽しかった。  だが大学卒業後に二人で住むようになってすぐ、哲也が三交代制の遅番のシフトに配属されて以来、お互いに時間を合わせることが難しくなった。
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