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会えていないわけではない。
部屋に帰れば彼女はいるし、あまり趣味のなかった哲也のにとって多趣味でいろいろな方向へ興味を持っているさつきの私物の一貫性のなさが身の回りにあるだけで哲也に暖かさを与えていた。
それでも――
二人で会話する機会は劇的に減った。
あるとすれば「お疲れ様」「おやすみ」などの簡単なあいさつのようなものだったし、そもそもどちらかが寝ていたらそんなやりとりすらなくそのまま、ということもしばしばあった。お互いに激務であり、また不定期に勤務時間が変わりやすいので約束を取り付けることが難しいのもすれ違いに拍車をかけた。
喧嘩はなかった(というかその気力がなかった)が、ちょっとこのままではいけない、とお互いに思いつつ、それぞれの仕事をやりたくてやっているということに対する自負と遠慮があったので、毎日が過ぎるままにしていた。
哲也としては結婚も視野に入れた同棲生活だったのだが、もう少し頑張って自分が出世しなければ都合の良い勤務時間が選べるというようなことにはならないらしい。先は長そうだ。
「ふう……」
家路につく多くの人を横目に見ながら、こちらは出勤のために電車に乗り込みつつ哲也は嘆息した。
ネットの世界は24時間365日不眠不休で動き続けている。哲也の業務であるサーバー管理も誰かがやらないといけないことだ。それがたとえ恋人たちにとって邪魔だったとしても。
(転職するかなぁ?)
どこまで本気で考えていいのかもわからないような漠然とした発想を頭の中でしつつ、哲也は最寄駅に降り立ち、戦場へと歩を進めていった。
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