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武雄はふーっと煙草の煙を吐き出し、天を仰ぐ。まだ元気だった頃の春子との会話を思い返していた。
「『そんな愛想笑いばかりしてないで』って今日叔母さんに言われちゃったわ。愛想笑いじゃないんですけどね」
顎に手を当て、困ったように武雄を見る。
「ねぇ、私、愛想笑いっぽいのかしら。どうしたらいい?」
笑顔を絶やさない春子ではあったが、武雄の前では例外だった。
自分の全てを受け止めてくれる武雄に対し、春子はどちらかといえば少女のように天真爛漫にコロコロと表情を変え、時には泣いたり落ち込んだりする姿をも見せ、こんな小さなことも本気で悩んだりした。
そんな春子が武雄は愛おしかった。
「そのままでいい」
そう一言だけ答えた武雄にしばらく春子は「でも」などと唸っていたが、しばらく考えて、
「武雄さんがいうならきっとそうね」
とぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。
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