謎の男

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彼氏は欲しいと思うけど、恋愛なんてする暇が無い………………私の家は母子家庭だ。父は五年前、私が中学生になる頃に癌で他界した。父は仕事で昇進したばかりでギリギリまで病院に行かず、気付いた時には手遅れで急に亡くなってしまった。母はこんなの過労死と変わりない、もっと早く治療すれば助かった筈だと散々取り乱して嘆いたが父は旅立ち、戻らない。  父は私達母子が生活出来る資産は残してくれたと母は言った。しかし母が突然働き始め必死になっているのは、父の思い出があるこの家を手放したく無いのと、私の大学費用の為だ。だから私は卒業したら働いて、まずは母のお荷物から抜けたい。 (そうだよ、恋愛なんて今はしてる暇ないんだから……!! 卒業したらガンガン稼いでこの家を守るんだ!!)  私は闘志を燃やし、独りエイエイオーをした。  翌日………… 「えっ!? じゃあ送って貰った後の、ちゅーは!?」  私は美夏の質問に飲んでいたジュースが鼻から出そうになった。今は学校の昼休みで二人で購買のパン等を食べながら、中庭で昨夜の話しをしているのだ。 「だからしないってばマジで」 「わざわざ待っててくれて送ってくれただけ?」 「からかわれたんだよ多分……」 「何の為に?」 「何のって…………そりゃ…………何だろう?」 「ほらほらほらぁ」 「やーめーてーよっ、私そんな暇ないんだからー」 「忙しいのは分かるけど、彼氏はいてもいんじゃないの?」 「いーの、彼氏に付き合う時間がないもん」 「ん? 私と公園で話す時間をあげても良くてよ?」 「駄目!! 美夏とのお喋りのが大事」  そう言うと、美夏は私の頭を嬉しそうに撫でた。 「でもさ、断るの勿体なさすぎ。素敵な人なんでしょ?」 「ん…………そりゃ……そうなんだよねーっ……ハアアアアッ」  私は大きな溜め息をもらした。きっとこれからの私の一生の内にあんなに凄いイケメンに送って貰う事なんて、二度と無いだろう………。
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