謎の男

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マスターが興奮のあまり震える手でやっと入れた珈琲を、私は『可憐な人』に運んで行った。彼の前に珈琲を置くと「昨日の所で待ってます」 と言われてドキッとした。断らなくては、と思うのに私は何も言えなくなってしまった。 (どうしよう…………私、断りたくない…………)  私は自分の本当の気持ちを知ってしまった。私は彼に恋をしている。いつの間にか………………いや、ずっと前から…………彼を物凄く好きだったんだと…………  『可憐な人』は午後七時ちょっと前に『秋の葉』を出て行った。私も午後七時過ぎにはスタッフルームに大急ぎで駆け込み、帰り支度をした。帰り際、マスターに「気を付けてねん」 と言われた時に話そうか迷ったけれど、マスターのご機嫌な顔を見て明日にしようと思い直した。  店を出ると、彼は待っていて私と並んで歩き出した。 「あの…………何で送ってくれるんですか? き、気になるんで教えて下さい!!」  私は詰まりながらも『可憐な人』に質問した。 「護衛」   「は!?」  物凄くシンプルな答えに、私は思わず聞き返す。 「ご、護衛ですか…………??? 何で、あなたが私の護衛をするんですかっ!?!?」 「………………」  彼は答えない。私は彼にもう一度聞こうと口を開きかけた時に手で口を塞がれた。彼の皮手袋の匂いがする……そういえば前に身体ごと運ばれた時も皮手袋をはめた手で目を塞がれた。やっぱりあれは彼だったんだ…………今こうやって塀に押し付けられ身体を密着していると、あの時の良い匂いがまたしてくる………………って密着してる!?!? 「…………ん」  私はもがいた。 「しっ静かに」  彼は一点を凝視したまま小声で言った。  私は彼の視線の先を追うと、電柱の上に青白い何かがいる!? のが見えた。 (あれは一昨日の………………)
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