マスターの慕情

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「何よ、男が女を送るのに下心以外のどんな訳があるっていうのよっ!? 馬鹿にすんじゃないわよっ!!」 「護衛」 「へーそう、は?」 「私、襲われそうになったの」  あたしはスタスタ歩いて扉を開けたわよ。チビが襲われるって、ただ事じゃないもの。扉を開けると吉乃は済まなそうにあたしを見上げていた。 「誰に襲われたって!? あんた何で直ぐあたしに言わないのよっ!?」 「いや、未遂で生きてるし信じられない話しだから」 「馬鹿っ!! 何かあったら言いなさいよっ!! あたしがあんたを信じないと思ってんの!? ふざけんじゃないわよっ」あたしはチビちゃんを抱きしめた。  あたし達が抱き合っているのを見て、何を勘違いしたのか御客様の爺さん婆さん達から拍手が起こった。 「ちょっと何? 勘違いだわよ!? もう、なーーーにーーー????」あたしは訳わかんなくなって思わず叫んじゃったわよ。  一体今まで何を大騒ぎしてたのか?もう錯乱狂乱御覧あれ、よ。とりあえず…………チビちゃんとは営業後に話す事にしたわ。 「ま、今日はあたしが送るから洗いざらい喋んなさいよ」あたしはお人好しだからチビちゃんにアメリカンコーヒーとチェリーパイを出して、カウンターに座らせた。あたしはチビちゃんの女らしくない食べっぷりが好きで、よく食わせている。物凄い勢いで食う様は猛獣みたいだけど、生きてる!! 感があって好きなの。チビちゃんには変に気取らずこのまま育って欲しいと思うわ。 (しかし、いくらチビちゃんが可愛くても彼の事は別よっ、しっかり聞いておかなくてはっ!!)  あたしは午後八時になり御客様も一人残らず帰った後、中にチビちゃんを残して入り口のシャッターを降ろしに一旦、外に出た。 (んはーまだ寒いわねえ、やんなるわ……………よね!?)  入り口の脇の電柱にもたれて、私の神が立っていた。
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