マスターの慕情

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「あ…………」あたしは立ち止まったまま、固まったわよ。まさか彼に不意打ちをくらって素でブツクサとシャッターを閉める所を見られるなんて!? 「今晩は」彼はあたしに微笑んだ。暗がりの中でも後光が差して見えたわよ。 「こ、こ~んば~んわ~」あたしは膝を少し折って、鼻から抜けた声で彼に挨拶してしまって……やだ普段はあたし、こんなんじゃないのに……もう骨抜きでだらしないったら……………… 「あの、バイトの子は今日はお休みですか?」    彼のこの質問を聞いた時に、あたしの中で一気に冷風が吹き抜けたわよ。あたしは姿勢を正してから、親指を茶店の中に向けて彼に言った。 「カモン」    彼は皮手袋をはめた両手で口元を押さえ、笑いを堪えながら店の中に入って来た。チビちゃんは彼を見ると驚いて、ガタッと大きな音を立てて立ち上がった。まあ、そうね……あたしなんか失禁しそうな程……あ、失礼、心臓バクバクいってるわよ。 「と、取り敢えず…この子の隣に座って頂ける? 今、珈琲…い、入れるわね」 (落ち着くのよ、落ち着いて頑張るのよ! あたしっ)      彼は静かにカウンター席に座ったわ。あたしは珈琲を入れてカウンター越しに彼の前に置こうとしたら、手が有り得ない程震えて……滑った。 「キャ!!」あたしは彼の胸から腹にかけて熱い珈琲をかけてしまったのよーーー!?何やってんのあたしーーーーー!!
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