マスターの慕情

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「違いますよ、随分面白い条件になっちゃいましたね? では俺もいいですか?」 「な、何よ」 「業務中ずっと手袋を着用させて下さい。洗い物はゴム手袋、オーダーされた物を運ぶ時は薄いゴム手袋の上に綿手袋を着用して良いなら、バイトはOKです」 「ヤダ、あんた潔癖なの?」 「いえ、違います」  あたしは彼と働けるだけでも夢のようだった……何より完全に店の客数も増える事は間違い無しで、彼の条件など些細な事でありそれをリスクと全く感じなかった。 「まあ、いいわよ。いつから来れる?」あたしはポーカーフェイスで交渉を進める。商売では基本よね。 「来週からはどうですか?」 「いいわ、ここで慣れてあたしを信用出来たら必ず話して貰うわよ。この子の送り迎えはやってちょうだいね」  彼はニッコリ笑って「はい」と応えた。  あたしは小さくガッツポーズを決めるとチビちゃんが小声で「私をダシにしたでしょ? マスター」と睨みながら言うので教えてやったわよ。   「これが一石二鳥っていうのよ」 「もう!! あたしの相談も聞かないで……知らないからね」チビちゃんはイ~ダという顔をしてスタッフルームに荷物を取りに行った。   彼は珈琲を被ったシャツやセーターを持って「来週から宜しくお願いします」 と礼儀正しくあたしに御辞儀をしてチビちゃんを送って行った。  店に独り残ったあたしはキャッホー!! と叫び声をあげ、暫く歓喜のダンスを堪能したわよ。
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