聖なる時間

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「まだ、春海さんの事を待っているんすか?」  私は溜め息をついた後、向井刑事に向き直って言った。   「ヨツグイ……だっけ?これが春海の成れの果てかどうかは分からないけど、捕獲するつもり?もしも春海とは別の生物だったら、どこから出てきたか考えた? 春海を探すのが鍵になると思うけど……その様子じゃ、まだ居所を掴めて無いんだ?」 「さすが義理姉様、ご明察……その通りっす。春海さんは僕達が昔住んでいた町や県にはいなさそうです。ヨツグイが春海さん本人かどうかは確認するのも恐ろしいですが…………違うかもしれません。もしかするとヨツグイの近くに案外春海さんはいるかもしれないし、それなら僕達の身近にいるかもしれません。まあ、都会は隣人にも関心が無い所が多いですから身を隠すには絶好で、捜索するほうは大変で中々見つかりませんが……。時々、田舎が恋しくなりますよハハハ」 「あれだけ色々あった後、こっちに来て仕事があるだけ良いでしょ。昇進もした事だし。泣き言言ってる暇があったら実家の御両親は健在なんだから夏希を連れて、たまには里帰りしなよ」  そう言うと、向井刑事はハッとした顔をして「すみません」と私に謝った。  向井刑事は私達の両親が亡くなっている事について引け目を感じて謝ったようだ。 「ばーか。気にしなくていいから。でも口が災いを招く事について少し学習した方がいいかもね。私を散々、行き遅れ扱いしたりとか」私が言ってやったら向井刑事は頭を掻いた。 「まあ、それじゃ今日は退散します。春海さんに関する何かを掴んだら連絡しますんで義理姉様」向井刑事は逃げるように去っていった。  春海が生きていれば二十六歳になる……。生きているんだろうか? その可能性は低い……当時の彼は死ぬ事を決意していたから。
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