聖なる時間

5/9
前へ
/197ページ
次へ
私は高校を囲む道路をぐるりと巡り、再び坂道を下ると左手に墓が広がり大きな寺があった。生者と死者を一度に意識させられる土地事情に何といって良いのか変な気持ちになった。きっとこの天気のせいでもあるのだろうと思う……。  更に歩みを進めると公園が見えて来た。  公園の先にホンワリとオレンジ色の光が見える。赤レンガにガス灯を思わせる明かりでライトアップされたシックなカフェが見えた。カフェと言うより喫茶店とよぶ感じがピッタリかもしれない。何しろ助かった……ずっと寒い中歩き続けて少し疲れてきた所だ。 (暖かい珈琲が飲みたいな……)  喫茶店に駆け寄り看板にチラと目をやると「秋の葉」とある。懐かしい人を思い出した。  カランカラン…… 「あら、いらっしゃいませ~お好きな席にどうぞ」    六十年代ファッションを思わせる、どピンクの衿のおおきなシャツに髪型はアフロの何だか女らしい男性が私を迎えてくれた。私が窓際の席につくとカウンター内から水を持ってやって来た。見ると、ブーツカットではなくパンタロンのようなピタピタのパンツをはいていた。そしてメルヘンなエプロン…………面白い。 「何になさいますか?」   「暖かい珈琲下さい」 「OK」  面白い人は尻を左右に振りながらカウンターに入っていった。店内を見ると客は二、三人しかおらず暇そうだ。しかし店内は清潔で掃除が行き届いており、レトロなディスプレイも趣味が良い。店構えも悪くないし普段天気の良い日は、もっと賑わう店なんじゃないかと思う。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加