聖なる時間

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「はい、どうぞ」面白い人が珈琲を運んで来た。彼は主張の強い服を着ている割には、余計な事も言わないし、何だか居心地がいい。 「美味しい!」思わず声に出していた。こんな美味しい珈琲を初めて飲んだからだ。 「フフッ。お代わりはサービスよん」   「お代わり」 「は!? あなたもう飲んだの?いいわ待ってなさい」面白い人は早足でカウンターに戻っていき、珈琲の入ったグラスポットを持ってまたやって来た。そして私のカップに珈琲を注ぐと、いい匂いが広がった。 「有り難う、こんな美味しい珈琲初めて飲んだ」 「うふ、こだわってるから嬉しいわね。飲みっぷりも男らしいし……また来てくんなきゃ嫌よ」 「あはっ、来ますよ。実はこの辺に住んでないけど……また美味しい珈琲飲みに来ます」 「あら、そうなの? じゃあ次に来てくれたら私の特製パイをご馳走するわよ。来ないと損するからね」 「ははは!その約束は絶対忘れないで下さいよ、近々また来ますんで」 「じゃ、女の約束よ。ゆっくりしていってちょうだい」  どうやらマスターらしい、面白い人はカウンターに戻って行った。詮索もしないし、その距離感も心地良く私はすっかり『秋の葉』を気に入ってしまった。  身体が暖まり店を出ると、さっきより雨は小降りになっていた。白い息を吐きながら傘を差し、再び歩き始めた。さっき通った高校の生徒が下校中なのか……何人かとすれ違う。  ハッとして、前を歩いている四人連れの女子高生を呼び止めた。 「突然ごめんなさいね、この辺で噂になっている事について調べているフリーライターなんだけど、何か学校で噂になってない?」私は質問するために職業を偽った。
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