謎の男

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最初は外人かも? と思ったけど日本語が上手すぎるのでどちらか解らない(マスター:談)。いつも窓際の席に座って本を読むでもなく、ただ外を眺めている。その表情が死んだ恋人でも思い出しているのか、悲しくて、穏やかで、そう、可憐なのだ。そして『秋の葉』の金曜日はその人目当てのお客様も多く、普段より忙しい。マスターでさえ、その人のファンで金曜日はソワソワしてる。    マスターもその人も男性なんだけど…………。  それを美夏に話したら、不思議な人は『可憐な人』と名付けられ私達の間でそう呼ばれるようになってしまった。美夏はまだ、その人に会った事はなくて「見てみたい!」 と私に言うけど金曜日は塾の日で拘束され、無理な様子だった。  明日はその『可憐な人』が現れる金曜日で、私のバイト出勤日でもある。  実を言えば、私自身も金曜日を少し心待ちにしていた。いつか『可憐な人』に話しかけられてみたいという、乙女な期待があるからだ。しかし『可憐な人』は無口でマスターに話しかけられても、穏やかに微笑む位で打ち解ける事は無かった。それが益々マスターの恋心を擽るみたいだけど、私にしてみればもう少し歩み寄ってくれてもいいんじゃないか? と物足りなさを感じた。だって、五年も前から通ってくれる常連さんらしいから…………。  その日も公園で美夏と別れた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。公園から自宅までは五分位の距離だけど、早寝早起きの高齢者住人が多く夜になると周辺は静まり返り、電灯があるとはいえ暗がりが多くて人気が無い。  私は無意識に早歩きになる。何となく恐ろしくて俯いてひたすら歩く。こんな時は通行人と擦れ違ったり後ろを歩かれると、緊張してしまう。  ふと、私は気配を感じた………………見られている?  私の右側は、ずっと家屋の石塀が続いている。石塀の高さは私の背より頭二個分高い。 (猫かな?)  私は石塀の上を見上げた。 (えっ…………!?)  私は石塀の上にいるものを見て、立ち止まってしまった。見たものを脳がどう整理して良いのか解らず、パニックになり五感の全てを失われたような感覚に陥る。
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