聖なる時間

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「こんにちは」店の中に入ろうとしている、マスターの背中に声を掛ける。 「ん? あら、あんた確か……この前の……」 「伺ったんですが満席なら出直そうかと思って……何時までですか? お店」 「あん、カウンターなら御一人様開いてるわよ。あっ!言っとくけど、うちのスタッフは超イケメンなんだけど手エ出しちゃ駄目ノンノンよ。飽くまでも鑑賞オンリーだかんね!分かったら入って、ほら入ってカモン」マスターは扉を開けて手招きした。  私はクスクス笑いながら、店内に入ると…………混んでいた。年齢層は幅広そうだが、見事に女ばかりだ。そんなに良い男なのかと、カウンター内を見た。  動けなかった。相手も真っ直ぐ私を見ていた…………まるで店に私が入る前から分かっていたような表情だった。  私は震えた…………彼は私が最後に見た彼のままだったからだ。元々、身長は高いし服装も大人っぽくすれば高校生の年齢には見えないだろうが…………それでも作り物の若さじゃない事は分かる。彼の時はあれから止まってしまっているのだ。  人が死に向かって進んでいく、かけがえのない聖なる時間。彼はそこから外れてしまった………私が入り口で佇んでいると、彼は「どうぞ」と開いている席を差して私に座るよう促した。  私は彼を見つめたまま、カウンター席についた………………
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