謎の男

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彼の笑顔がまさか私に向けられる日が来るとは信じられない!! と舞い上がる自分を抑えながら、気付かれないように小さく深呼吸して歩いた。    帰り道はずっと無言だった……ずっと話す機会を狙っているけど奥手の私には到底無理。とうとう自宅の前まで着いてしまった。 「バイト、次はいつですか?」 「は、はあ金曜日から月曜まで毎週やってます」 「暫く送らせて貰って良いですか?」 「は? 暫く、はあ何で?? あっ嬉しいですけど…あっ!! い、いえ……ひあっ」 「ぶはっ!!」  私の動揺っぷりを見て『可憐な人』はまた……吹き出した。今度は身体が痙攣したように震え、門に手をついて堪えているけど笑いはなかなか収まらない様子だ。所々で「もう我慢出来ない」「無理」とか聞こえてますけど!? 「あのっ!! 何で私を送ってくれるんですかっ!?」  どさくさ紛れで、私は勇気を出して聞いてみた。  『可憐な人』から、突然笑顔が消えた……そして私の顔を見て彼は言った。 「暫くの間だけですから…………じゃ、また」  それだけ言うと、踵を返して去ってしまった。 (暫く? 何で?? は、私…もしかして、からかわれた!?)  私は『可憐な人』が何を考えているのか益々解らず、混乱して、動揺して、高揚して、自分の部屋に戻ると着替えるのも忘れて考えた。 (やっぱり……からかわれたのかな? 期待して、馬鹿みたい私……でも、そんな事しそうな感じの人に見えなかったけど……じゃあ何で??)  可愛いと言われた事を一瞬思い出したが、私は自分の器量が十人前でそんな事が理由にならないのは自覚している。 (自惚れるな吉乃!! 勘違いして泣くのは自分なんだからねっ)    私は自分の頬を両手でパンパンと叩き、自分を取り戻した。 (明日は『可憐な人』に送って貰うの断ろう!!)
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