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「達哉さんと俺が嵌められた、あの夜――潜入の情報を売ったのは、花村だ」
「――えっ」
俺の胸の上に抱かれた、優華の身が固くなる。
「あの野郎が……畜生っ!」
天井のシーリングファンが、ゆったり回る大きな羽根が、ジワリと滲む。
女の前で涙を見せるなんざ、情けねぇが……俺は、本当に、達哉さんを尊敬していたんだ。
「……優華」
腕の中の彼女が震えている。シャツが生温く濡れていく。
「酷いわ……ずっと、近くにいたのに」
ギュッと俺にしがみつく。苦しみと悲しみ。激しい憎悪。同じ思いに、二人して震える。
「ああ、八つ裂きにしても、足りねぇよ。奴も、奴の後ろで糸引く奴も、許さねぇ」
「譲ちゃん……っ!」
どちらからとなく唇を求めた。熱い涙が混じる。しょっぱいと感じたのは最初だけで、すぐに互いの熱に身を投じ、灯った炎に全てを燃やした。心も身体も貪るように、ただただ激しく溶かし合う。輪郭さえ分からないくらい重なり、とろけ――泥のような眠りの底に埋もれた。
-*-*-*-
「……譲ちゃん、風邪引くわ」
優華の静かな声に引き戻される。深い沼底に沈んでいた感覚だ。
二人の間の体温だけが張り付いた、肌寒い夜明け。
脱ぎ捨てたドレスに肌を隠しながら、優華は身を離す。涙の痕が乾いていた。
「――優華」
離れかけた腕と腰を引き、再び胸に戻して、唇を塞ぐ。
強い酒が抜け切っていない俺と違い、ほろ酔い程度で抱かれた彼女の背は、既に熱が引いている。
脱ぎ散らかした服もそのままに、彼女を抱き上げて寝室に向かった。力なく見つめ返す瞳は、まだ深い悲しみを湛えている。
ベッドの中に滑り込み、本能を満たす目的ではなく、互いを暖め合うために肌を寄せた。時間の流れから切り離されたように、明けていく世界を忘れ、重なり合う。
痕を残さぬよう、白い肌を柔らかくついばんでいくと、彼女の吐息が徐々に熱を帯びていく。昂る波に任せて、シルクのシーツを乱した。
優華は、うわごとのように何度も俺の名を繰り返し――細い腕を背中に絡み付けた。熱い坩堝にとろかされたまま、朱が差した唇に何度目かも分からないキスを交わした。
「お願い……今朝は、独りにしないで」
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