第七章

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耳に触れた唇の感触が生々しくて、思考回路が一旦停止する。 抱き寄せられたままボーッと立ち尽くす私。 「そろそろ参拝でもするか」 そう言いながら、仁さんが私を解放する。 抱き寄せていた腕が離れた瞬間、私はハッと我に返り、 「…そっそうですね」 そう言葉を返す。 ホント勘弁してほしい… こういうことにはホント免疫がないんだから… なんてことを思いながら歩き出そうとする私。 その私の右手を仁さんが摑まえ、 「手を繋いでないとはぐれるだろ」 そう言いながら、繋いだ手をそのままコートのポケットの中に入れる。 女性経験が豊富なんだろうなと思わせるような、自然な動き。 それとは対照的に、全神経が繋がれた右手に集中してしまう私。 仁さんの大きな手が私の手を包み込むように握りしめている。 大きくて温かい手。 その手に握りしめられて緊張はするけれど、前回もそうだけど嫌な気持ちにはならない。 抱きしめられても、手を握られても、嫌悪感は全くない。 社長だからなのだろうか? 素性がわかる相手だからなのだろうか? 何故か解らないけど、嫌な気持ちには全くならない。
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