第一章

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◇◇◇◇◇ 「…ここら辺は、道が入り組んでるんだな」 「…そうですね」 私は今、迷惑をかけたあの彼に、タクシーで送ってもらっている。 「あっ、すみません。ここでお願いします」 実家近くの最寄りの駅。 駅前通りで、私はタクシーを止めた。 「ここでいいのか?家の前まで送ってもいいけど」 いやいやいやいや… これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。 それに、見ず知らずの男に家を教えるのもどうかと思うので。 「ホント大丈夫です。ここで大丈夫です」 あっ、そうそう… 降りる前にクシー代を… タクシー料金は五千円を超している。 お金を払おうとバッグの中から財布を出すと、 「帰る方向がたまたま一緒だったから乗せただけで、金は払わなくていい」 払わなくていいと言われた。 本当に払わないでいいのだろうか? そう思いはしたけど、 彼は私に早く降りて欲しいみたいで、 「それじゃ、気をつけて」 まだ降りてもいない私に、別れの挨拶をしてくる。 早く降りるよう促された感じの私は、 見るからにお金持ちそうだし… もう会うこともないだろうし… ここは奢ってもらおう。 なんてことを思いながらタクシーから降り、 「送ってくれてありがとうございます」 お礼を言いいながら、軽く会釈をした。
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