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義理は買うが、
本命は作ると決めた。
私を突き動かすエモーショナルな男のためだ。
板チョコをゆせんで溶かす。
システムキッチンは狭い。
額の汗を拭う。前髪がはりつく。
いらねー、前髪…。
いっそ、あれだ。
がっつり眉ぜんにしてしまおう。
する気もないくせに、その場だけの一瞬の思い。
溶けたチョコを型に流し込む。
………でかい。
一応ミルクとホワイトといちごの3層グラデで
作っては見たが、中々のボリュームだ。
型から想像していたが、実際でかい。
冷ましてからカカオパウダーと白糖をまぶして、
完成だ。
よし、ぼんやりしてぱっとしないあいつを
驚かせてやる。
大学のビッフェにサークルの連中がいる。
お目当ての男が…いない。
「みちる!」
呼び止めたのはサークルのお調子者のバカだ。
「今日はなんの日ふっふー」
……。みのかよ…。おめぇいくつだ?年齢詐称してやがんな?
「……はい」
「ライトニングノワールじゃんか」
そうだ、貴様には30円すら惜しいくらいだ。
あ、いた♪
駆け寄ろうとして、急ブレーキをかけた。
照れくさそうに笑いながら歩いている。
高いチョコ屋の紙袋をこれみよがしにぶらさげていやがる。
本命だ本命だとやかましいところのチョコをもらったのだろう。
すぐ後ろには違うサークルの美人ちゃんだ。
仲良く話している。あぁあぁ、そうですか…。
あの手の男は不意にモテやがる。
私のうかつ。
コートのおしりに包装したチョコが入っている紙袋を隠す。
じゃあとでね、うん。的なやり取りの後、
やつは来た。
あー、もーいーですわ。
みちるは深呼吸してから、
「ハイハイ、男子ー。席に着きましたかー」
キョトンとする一同を尻目に、
「はい義理ー」
といって、ライトニングノワールを皆に渡した。
本命だったあいつにも。
ライトニングノワールにはキャッチがプリントされている。
女性の味方!
ウソつけよ!
家に帰った。ぼんやりと邦楽を聴く。チョコは捨てた。SNSで散々友達から飲みの連絡が入ってくるが既読もしない。
ぴんぽーん。
え?誰?
開けたら、ひょっとして…あいつ?
しかし、悪友の巨乳の女だった。
「渡しそびれたね」
おまえ…開口一番いうか…?
「みちる、今日めちゃ可愛かったよ!」
「どんくさボーイはあきらめな!」
「おまえー」
抱きしめた。今夜はもう離さない。
そんなバレンタインの夜に焼酎が1本空いたとか。
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