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――ちーくん。
耳元で甘く囁いてきたのは俺が好きな鈴の声じゃない。
ましてや他の女の声でもない。
低く、からかうような響きをした男の声だ。
ついさっきまでは“千裕くん”と呼んでいたはずだ。
不意のことに驚きをそのまま顔に出すと、男は屈託のない笑顔を妖艶に歪める。
「アタリ?」
俺の動揺を見透かすようにその男は首を傾げ俺に顔を近づけてきた。
「ちーくん、ほら。口、開けて」
指が俺の唇を滑り、ほんの少し開かせる。
「――智紀さ…」
我に返ったときには遅く、重なった唇から舌が入り込んできていた。
熱く絡みつく舌に、俺はとんでもない男に捕まってしまったんじゃないのかと気づいた。
―one night―
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