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バーのドアベルが静かに響いて何気なくカウンターにいた俺は視線を走らせた。
スーツ姿の男が一人店内に入ってくる。
薄暗い照明の中で、その男は異様に目立って見えた。
20代半ばくらいに見える爽やかそうな雰囲気をした顔立ちの整った男。
まだ大学生の俺が社会人の男の地位を推し量ることなんてできない。それでもその男は若いけれど普通のサラリーマンと違うのはわかった。
オーラっていうと大げさかもしれない。
でも華やかで知的な空気をまとってカウンターへと歩いてくる姿を無意識のうちに目で追っていた。
その男が俺が座る席の間一つ空けて立ち止まりカウンターに手を置く。
常連らしい男はマスターとバーテンに声をかけて――俺を見た。
「こんばんは」
「……こんばんは」
「隣いい?」
「え? はぁ」
俺が見すぎていたせいなのか、声かけられたうえにまさかの相席。
正直戸惑いながらジントニックを飲む。
高いスツールに優雅に座った男はバーテンダーに
「とりあえずビール」
と声をかけて背広の内ポケットから煙草を取り出した。
片手で一本取り出して口に咥えて火をつける。
流れるような動作は様になりすぎていてまた目で追ってしまう。
「吸う?」
煙草を差し出されて、結構ですと首を振った。
俺、なにしてるんだ?
こんなにじろじろ見てたら不審者だろ。
グラスに視線を落として表面に薄く浮かぶ水滴を眺める。
たまには一人で飲もうとふらり立ち寄ったバー。
初めて入ったこの店を選んだ理由はとくにない。
ただ静かな場所で一人で酒を飲んで――感傷に浸るのもたまにはいいかなと、それだけだった。
「俺、邪魔?」
顔を上げたら頬づえをついた男が口元に笑みを浮かべて俺を見つめてる。
邪魔と言ったら正直邪魔で。
それでも実際目についたってことは多少興味があるってことだろうから、そうでもないとも言える。
「いえ……」
無愛想にするのもなんだから、愛想笑い程度の笑みを浮かべる。
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