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お互い簡単な自己紹介をして、初対面だというのに打ち解けるのはあっという間だった。
27歳だという智紀さんからもらった名刺には"代表取締役"なんていう肩書があってびっくりするのと同時になるほどなとも感心。
小さい会社だよ、とは言っていたけど、やっぱりなにかしら上に立つ人は違うんだなと実感する。
俺自身人見知りする方ではないけど、それでもまるで昔からの知り合いのように思えるくらい会話が弾むのは智紀さんのリードがうまいからだと思う。
「それにしてもいいなぁ、大学生」
「そうですか?」
「合コンしたい」
「すればいいじゃないですか」
三杯目になる酒を飲みながら智紀さんはしみじみと呟く。
「それに別に合コンなんかしなくてもモテそうだからすぐに彼女できるんじゃないんですか?」
彼女、か。
恋愛ネタはいまは避けたかったけどしょうがない。
胸の奥がちくちく疼くのを無視して残り少しになっていたジントニックを飲みきった。
「まぁモテはするけど」
あっさり認めても智紀さんなら嫌味じゃないから不思議だ。
「でも好きな子に好きになってもらわなかったら、意味ないよね?」
「……」
俺は――笑えてるだろうか。
もうとっくに諦めて、封印した気持ち。
「俺、最近振られたんだよね」
「え?」
俺と――同じ?
イヤ違うか。俺は気持ちを伝えることはしてなかったから。
智紀さんは静かにグラスを置くと笑った。
「千裕くん、も、だろ?」
「……は?」
まるで俺のすべてを見透かすような目。
動揺よりも先に単純に驚いた。
「なんで」
「だって」
――泣きそうな顔してたから。
智紀さんの言葉に、俺はどんな反応をすればいいのかわからずにグラスを傾けて空だったことに気づいた。
「千裕くん」
俺はそんな顔してる?
いや、してるつもりはない。
「よかったら店かえない? 俺の失恋話、聞いてよ」
俺の話をするつもりはない、けど。
智紀さんも俺と同じなんだと思ったら、頷いていた。
「へぇ、ライバルがいたんですか」
誘われるままにバーを出てやってきたのは普通の居酒屋だった。
チェーン店の庶民的な店。
智紀さん曰く、騒がしい店の方がこっちも気にせずいろいろと喋れる、らしい。
そう言われればそうかなと思いながら智紀さんの話を聞いていた。
最初はお互いの世間話からはじまって、グラスを数杯重ねてようやく本題。
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