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ロシア人は俺に名刺を渡した。
イワン……。本名なのかはわからない。
某銀行の頭取をしている男だった。
「真夜中でも、仕事中でも構わない。
10枚持っているならいつでも電話してくれ」
そう言うと俺の手を強く握った。
「鯰ってカエルで釣るんですよね?
お腹にカエルは入ってました?
ちなみに鯰って英語でキャットフィッシュって言うのご存知でしたか?」
ギャルソンはおどけて言う。
残りの鯰は猫用に調理してくれた。
猫用なのにdoggy bagだ。
帰り際、マダムはイワンについて
教えてくれた。
彼はあるロシア人貴族の末裔。
奪われ異国に散らばった
ロマノフ家の財宝を集めいつか共に祖国へ
帰ることを夢見ている……。1897金貨は今、90枚集まっているらしい……。
彼の通り名は『ブラック・ルシアン』。
あのロシア人は裏の世界とも通じているから気をつけて。
チョコレートドレスのマダムは
俺の耳元で囁いた。
── あ。
俺はまたも青ざめた。
それからマダムは俺の腹を
ジャージの上からそっと撫でて
誰に言うでもなく囁いた。
「よく眠ってね……ボス」
家に帰ってすぐ俺は黒豆と一緒に
煎餅布団に潜り込んだ。
残りの金貨全てに
『1897』の刻印があるのを確認したのは
次の日スズキ君から手紙が届いた朝だった。
まずはアンティークショップのアオイさんに相談してみよう。
……そう思ったら不思議と頬がゆるんだ。
アオイさんとの話は、またの機会に……。
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