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「でもさぁ、このちっこいの……スッゲー煌騎に懐いてねぇ?」
さも意外だとでも言いたげに流星がポツリと言った。少年の身柄を確保する際、こいつはかなりの抵抗と拒絶に遭ったらしい。
心外な言葉に俺はピクリと反応し、眉間に深くシワを寄せるが隣りで和之がクスリと笑う。
「うん、それは俺も思った」
「そういやさっき、煌騎のこと“コウちゃん”って呼んでたよな、こいつ……」
どういうことだ?と神妙な面持ちで流星が頭を抱え、ゔ~んと唸り出す。端から俺の言葉を信じていない奴らだ、不思議に思って当然だろう。
そこへ普段から冷静沈着な朔夜が控えめに尋ねてきた。
「煌騎、本当にこの子のこと知らないの?」
「………さぁ、どうだろうな」
だが俺はまたも曖昧な言葉で濁した。――というより濁すより他なかったというのが正しいか。
……まだ、確信が持てない。
こいつも俺と認識した上で抱きついてきたようには見えなかった。
車中で姿を見かけた時、もしかしたらという胸騒ぎが胸中を駆け巡ったのは事実だが、しかし本来それは絶対にあってはならない事だった……。
もしこいつが俺の知る人物と同一なら、コトは俺たちだけの手では余る。最悪……いや、必ず本職の方々がお出座しになるだろう。
すべては慎重に見極め、行動しなければならなかった。
「……何だよ煌騎、またはぐらかす気かよっ」
「こらこら、そう目くじら立てなさんなってバカ流星」
俺の曖昧な言葉に苛立った流星が少し怒気を帯びた声を発したが、横に立つ和之が直ぐさま奴を窘めた。
目敏い和之や朔夜なんかは俺の顔つきで、ある程度の深刻さは予測しているのかもしれない。
それでもただ静かに“大丈夫なのか”と目で訴えるだけに留めてくれている。俺はそれに無言で頷き、腕に抱く子供をそっと見つめた。
少し力を込めれば簡単に折れてしまいそうな程、こいつの身体は軽くて華奢だった。恐らくは飯もろくに食わせて貰えなかったのだろう。
―――俺の知る人物によく似た少年……、
見れば見るほど不思議な子供だ。
既に俺はこいつの正体も関係なく惹かれ始めている。
だが将来が定められている身の俺にとって、果たしてこの出会いがよかったのかどうか……。
正直、悩むところだった―――…。
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