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「―――けどなぁっ」
「けどもへったくれもないっつーの!何の為に私がさっきキレずに我慢したと思ってるのよっ!!それもこれも可愛いチィとお買い物する為でしょっ」
言い募ろうとした流星くんに、でも虎子ちゃんはピシャリと撥ね付ける。虎汰は溜め息を吐きながら流星くんの肩に手を置き、首を横に振った。
「……諦めろ流星、こいつはガキの頃から一度言い出したら聞かねーんだよ。お前も知ってるだろっ」
「だけどっ、またさっきみたいな奴らが来たらどうすん…だよぉ……」
納得がいかない流星くんは尚も口を開きかけるが、虎汰の言う通り彼女が可愛い見た目に反して頑固なのは熟知している様子。
言葉は尻窄みに小さくなっていった。それをさも嬉しそうにニコニコと見つめる虎子ちゃん。
「もうっ、誰も帰れだなんて言ってないし!店内にいる間だけなんだからそれくらい我慢しなさいよっ」
“まぁ私たちも荷物持ちがいないと困るし、ね?”と彼女は小悪魔な笑みを浮かべる。ボクはそれに曖昧に笑い返すと流星くんたちに「ごめんなさい」と謝った。
彼らには申し訳ないと思う反面、やっぱり虎子ちゃんとのショッピングは想像以上に楽しかったから、まだ終わりたくはなかったのだ。
震えもいつの間にか収まり、また買い物が再開されると思うと顔には自然と笑みが零れる。それを目にした流星くんたちは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、どこか安心した表情へと変わっていった。
「ほら、チィも私と二人っきりで買い物したいって!ねぇ♪ 」
虎子ちゃんに同意を求められて返答に困ったが、苦笑を浮かべつつも控えめに頷いてみる。だけど流星くんは大袈裟なくらいガクッと項垂れてしまった。
すると虎汰はそんな彼に遠慮なく膝蹴りを喰らわせ、軽く咳払いをしてからボクへと向き直る。
「チィが望むようにしていいんだからね?面倒くさいこいつは放っておいていいよ」
「おいっ、俺は別に――…」
「ハイハイ、愚痴なら後で聞いてやるから!ホラ流星ッ、後方に下がるぞっ」
まだ何か言いたげな流星くんを無理やり引き摺り、虎汰はボクたちから数メートルほど離れてくれた。
その距離は万が一何かがあっても彼らなら直ぐに駆けつけられる、ギリギリの範囲なのだと隣に立つ虎子ちゃんが教えてくれる。
"だから安心して買い物の続きをしましょ”と彼女は笑った。
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