姥捨街のプリンセス

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 五、六軒離れた家の扉が開き、二人の老人が出てきた。  麻の着馴れた平服に、フェルト地の小さな丸帽子を被っている。  禿頭の小太りと、白髪ののっぽであった。街路に並んで立ち、モルを凝視した。 「やはりそうだ」 「そうに違いない」  二人は同時に、肩越しに背中へ手をまわし、よっこらしょっと剣を抜いた。 「我らが宿敵、プリンセス・モル・アリア殿」 「ここで会うたが百年目、天誅の一撃を奉らん、いざっ」  二人並んで、剣を振りかざしてよたよたと駆けてきた。 「覚悟」 「覚悟」  白刃が振り下ろされるとみるや、モルは片足をひき、上半身を傾けた。  剣は空を切って路上に火花を散らす。  二人は剣を落とし、「イテテッ」と手を振った。  先王が若かりし頃の忠臣、ネヨッタとオキヨッタである。  モルは冷ややかに二人を見た。 「その方ら、まだ生きておったか。このようなかたちで久闊を叙すとは思わなんだ」  二人は憎々しげにモルを見返した。 「それはこちらのせりふでござるぞ」 「王族の摂政殿が何故ここに居られるのじゃ」  モルは自嘲の笑いを浮かべる。 「わたしもその年齢になったということだ」  二人はびっくりして顔を見合わせていたが、侮蔑のニヤニヤ笑いをモルに向けてきた。 「お気の毒でございますな、プリンセス。結婚もせず家庭も持たず、生涯を国政に捧げた挙句が」 「年寄りに喰わせる飯はない、排除します、と自分が作った国法に、自分自身が殺されるとは」 「これは皮肉な」 「これは愉快な」  はっはっ、と底意地の悪い笑い声を浴びせかけてきた。  高齢者排除法。生産活動に従事できなくなった年寄りは排除し、棄民地区に追放、幽閉する。モルが成立させた国法だった。
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