2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
五、六軒離れた家の扉が開き、二人の老人が出てきた。
麻の着馴れた平服に、フェルト地の小さな丸帽子を被っている。
禿頭の小太りと、白髪ののっぽであった。街路に並んで立ち、モルを凝視した。
「やはりそうだ」
「そうに違いない」
二人は同時に、肩越しに背中へ手をまわし、よっこらしょっと剣を抜いた。
「我らが宿敵、プリンセス・モル・アリア殿」
「ここで会うたが百年目、天誅の一撃を奉らん、いざっ」
二人並んで、剣を振りかざしてよたよたと駆けてきた。
「覚悟」
「覚悟」
白刃が振り下ろされるとみるや、モルは片足をひき、上半身を傾けた。
剣は空を切って路上に火花を散らす。
二人は剣を落とし、「イテテッ」と手を振った。
先王が若かりし頃の忠臣、ネヨッタとオキヨッタである。
モルは冷ややかに二人を見た。
「その方ら、まだ生きておったか。このようなかたちで久闊を叙すとは思わなんだ」
二人は憎々しげにモルを見返した。
「それはこちらのせりふでござるぞ」
「王族の摂政殿が何故ここに居られるのじゃ」
モルは自嘲の笑いを浮かべる。
「わたしもその年齢になったということだ」
二人はびっくりして顔を見合わせていたが、侮蔑のニヤニヤ笑いをモルに向けてきた。
「お気の毒でございますな、プリンセス。結婚もせず家庭も持たず、生涯を国政に捧げた挙句が」
「年寄りに喰わせる飯はない、排除します、と自分が作った国法に、自分自身が殺されるとは」
「これは皮肉な」
「これは愉快な」
はっはっ、と底意地の悪い笑い声を浴びせかけてきた。
高齢者排除法。生産活動に従事できなくなった年寄りは排除し、棄民地区に追放、幽閉する。モルが成立させた国法だった。
最初のコメントを投稿しよう!