1 卒業演目

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1 卒業演目

「勇音。卒業演目、何にした?」  愚問。  俺ができる事って、限られているだろう。 「合唱」  俺が入学したての頃。  音楽科教官が、 「楽典の『が』の字も知らない奴が、歌の巧さだけで高等音楽科に入った」  などと言っていた。  言われ続けて、早4年。  未だピアノなどの器楽単位は、同級生の宮本響(みやもとひびき)に……そう、初等体育科の響に、特訓を受けてギリギリを拾っている状態だ。  そんな俺ができる卒業演目は、歌唱しかない。 「合唱?」  響は理解不能といった顔をした。 「勇音、知っているか? 合唱って……一人じゃできないんだぞ」  残念そうに言うな。  そんなことは、俺だって分かっている。 「誰と一緒に歌うんだ?」 「藤原詩歌(ふじわらしいか)」 「……女と歌うのか」  響の表情が曇る。 「二部合唱だから、仕方ないだろ?」 「浮気、するなよ」 「するか!」 「そうか。だったら、いいや。俺も混ぜろ」  響、突然、ぶっこんできたな。 「無茶言うな。お前、体育科だろ?」 「ピアノなら誰にも負けない。伴奏させろ」  響は体育科でありながら、音楽科の教官達全員が受講しなくても単位を上げるよというほどのピアノ技能の持ち主だった。     
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