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1 うつつのまぼろし
風が緑をくすぐる音がする。
太陽の光は錦糸のように、木陰からやわらかく降り注ぐ。
穏やかな昼下がりの窓の向こう側とは裏腹に、部屋に立ち込める空気は重い。
それはこの部屋の主のせいだ。
ずいぶんと容体は良くなったのだが、油断は禁物だ。
心身ともに疲れ切っている彼には、どんなものでも毒になりうる。
はやり病に蝕まれ、一層もろくなった主人は、世界中の人間の知力をもっても知ることのできない場所に行ってしまいそうに見える。
熱が引き、起き上がれるようになってもなお、周囲は眉間にしわを寄せ、彼のこの先を憂慮している。
峠はもう越したのだが、彼の生気のない様子が、杞憂の種になっているようだ。
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