1 うつつのまぼろし

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「いいからじっとしていて」  ミラベルはそう言うと、ぎこちない動作で櫛を握り、ゆっくりと機械的な動作で髪を梳き始めた。  ところどころ引っかかりそうになりながら、髪の毛をほぐし、三つの束に分ける。  彼女はここまでは知っていたようだ。  三つ編みの仕方がわからないのか、三つのうちのひと房を手に握り、右に、左に、何度も動かす。  ゼセルにはその様子が見えずとも、ミラベルが、全く三つ編みができないことがわかったのだろう。 「やったことないなら、無理にしなくていいよ」  ゼセルは棘のある調子で喚く。苛立ちを含んだ眼差しは、ミラベルに届かない。  マルカはというと、止める術を知らないのか、黙って二人を交互に見つめるばかりだ。  余程気が悪いのか、ゼセルはかぶりを振る。  しかし、ミラベルはやめない。
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